困った行動・その5 他害行為
<親の肩身を狭くする・・・他害>
子どもの困った行動の中で
養育・療育に関わる人が最も悩むのは、
他人に危害を加えるという行為でしょう。
この行為はとりわけ親を悩ませ、かつ肩身の狭い思いをさせる問題行動です。
噛みつく、叩く、
引っ掻く、つねる、
唾を吐く
階段の上にいる時、横にいる子どもを押す、突き落とそうとする等々。
子どものすることとはいえ、噛み跡や爪痕がついて結構、痛かったりするので、
「どうしてそんなことをするのッ!痛いでしょ。」と
叱り方もきつい口調になってしまいます。
しかし、子どもは叱られたぐらいではなかなか他害行為を止めません。
また、子どもが他害行為をする前に止めようと思っても
電光石火の早業だったりするので止めきれないことも多々あります。
こうなるといつまたやるかわからない、と
周りの人間(大人、やられた子ども)に警戒心をおこさせるので、
良好な対人関係を築けなくなってしまいます。
他害行為をよくよく観察すると、
大人にはやるけど、子どもにはやらない、
反対に子ども(自分より弱い子、やり返しをしない子)にはやるけど大人にはやらない、そんな傾向になることが多いようです。
さて、他害行為をするきっかけや状況は、
自傷行為と共通点があるように見えます。
切羽詰まった気持ちの表現が他人に向かうか、
自分に向かうかの違いはあっても、動機は類似しているとと言えます。
要求、拒否、相手の気を引きたい・・・等
自分の気持ちを上手に言葉にあらわせず、手段として
他害という攻撃の形をとってしまうのでしょう。
無理強いに対する拒否、または要求が伝わらない時の他害行為は
ちょうど「窮鼠猫を噛む」に似た状態で、大人に向かうことが多いかもしれません。
また、外界に対する不安や恐怖心から自己防衛しようとして他害行為になる場合、
泣いている子供の声がいやだったり、
急に体を触られたり、引っ張られたりしたことに驚いて
噛んだり、叩いたりする時は子供に向かうことが多いでしょう。
中には大人に叱られた時、反発を大人に向けず自分より弱そうな子どもに向ける、
八つ当たりのような他害行動をとる子どももいます。
しかも、叱られたことを根に持って、
だいぶ時が過ぎた頃でもターゲットを見つけると突然叩いたり、
押したりすることがあるので、
周りの人間には理由がわからない時もあります。
また、他害行為をするようになった最初のきっかけとは大きくずれてしまい、
制止されたり、叱られたことが刷り込まれて、
わざと他害行為をして大人のの反応を試す行動に変わってしまうこともあります。
母親)の顔を見ながら
その反応を試すかのように通りすがりに見知らぬ人を叩いたり、
押したりする他害行為は誤学習を助長させてしまいます。
なぜなら母親は子どもをきつく叱ったり、対処法を考えるより先に
相手に平謝りする姿を子どもに見せてしまうからです。
それでは他害行為にどう対処すべきか、ということになりますが
自傷行為の時と同様、人との関わり場面の工夫や
負荷をかけすぎないようにして他害行為をできるだけ減らし、
行為そのものをわすれさせ忘れさせていくことが一番です。
こばとを開設して7年ほどたった頃と記憶していますが
母親と一緒の時、誰彼と無くすれ違った人を叩いてしまうという
お母さんは本当に困り切っていました。
お母さんは言葉がでないと言う以上に「叩く」という他害を悩んでいました。
男児の下には弟がいました。
弟をバギーにのせ、男児を連れて買い物にでかけると
店内でですれ違った通行人を叩くことがありました。
お母さんは男児を叱る前に相手に平謝り。
男児にとっては、大人を叩くことが
母親、大人の気を引くコミュニケーション手段として誤学習してしまったのでしょう。
こばとに来た時も案の定スタッフを叩きました。
対処を考えた末、男児が叩いて来ても
叱る代わりに何も言わず黙ってギュッッと抱きしめてやることにしました。
叩いてくるたびに抱きしめているうち
いつしか叩くのを忘れてしまい、
叩かずに抱き付くようになりました。
叩かなくても、周りの人が自分に関心を持って
関わってくれるいうことを理解したのでしょう。
自閉的症状の子ども達は
いけないことをした→叱られた→叱られたからもうやらない、
という思考回路にはなりにくいのす。
必ずしもストレートにきつく叱ることが有効とは限りません。
ケース・バイ・ケースで、子どものサインを読み取り、
その子どもに合った一番適切な対応を見つけたいものです。
急がばまわれ、で時間はかかりますが
周りの人の理解と協力を得て、対応を一貫させ
自閉症児に他害行為を忘れさせていくことが
根本的な解決につながるのではないかと思います。